近代日本指導層の代表的世界観?
最終巻では、ウィーン万国博からスイスを回覧、帰国命令を受けてマルセーユを発ち海路横浜に帰るまで。ヨーロッパを発つ前には、「総論」と称して全回覧の総括を地理、政治、経済につき展開する。まず、万国博をつぶさに見て各国比較文明論を展開する。スイスでは、学校教育、農業や時計製造に見られる工業など、国民の自主を育てる国策に感嘆するとともに、その景観が何よりも何処よりも素晴らしいと驚きの声を連発している。その驚きは、現代の我々に比べ、触れるに新鮮なだけ何層倍だっただろうことが伝わってくる。 スエズでは運河開削のレセップスの苦労話なども織り交ぜて、途次立ち寄ったセイロン、サイゴン、上海等のアジア各地の見聞を記録する。その中で、アジア人民をしばしばあたかも野蛮人と描いているのは、多分、自分の目で見ずに伝聞を記しているためではないか、と思われる。自分の目で見た自然環境については、その豊穣さを高く評価し「極楽界ト覚フカコトシ」と記すが、同時に人民を「怠惰」とも観察し、実態をリアルに観て判断を下している。 使節団、とりわけ久米のリアリズムと、そこに流れる潮流を読みとる透徹した考察力のすごさは全巻を通じ強く印象に残り、現代人にとっても刺激的な書物である。 他方で、久米は「総論」などで、特に近代において、自然環境が厳しく、衣食住生産力が必ずしも高くない米欧が、「欲深キ・・・人種風俗の習慣」を以てハングリー精神をバネに競争琢磨をくり返し、高い文明を築いてきた、との考察をくり返す。それは、それ以後の「脱亜入欧」を成し遂げアジアを侵襲する道を選ぶ近代日本指導層の代表的世界観につながる危うさを感じさせる。久米のリアリズムに接して、少なくとも、核兵器や地球環境問題をかかえてEUなどが協働の輪を拡げようとしている現代において違った読み方、結論の導出も可能と思うのだが・・・。読書子の評や如何?
岩波書店
特命全権大使米欧回覧実記 (4) (岩波文庫) 特命全権大使米欧回覧実記 (3) (岩波文庫) 特命全権大使米欧回覧実記 (1) (岩波文庫) 特命全権大使米欧回覧実記 (2) (岩波文庫) 明治維新と西洋文明―岩倉使節団は何を見たか (岩波新書 新赤版 (862))
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